IPSとは何か?セキュリティ対策の基本から仕組み・導入メリットをわかりやすく解説

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IPSとは、ネットワーク上を流れる通信をリアルタイムで監視し、不正アクセスやサイバー攻撃を自動的に検知・遮断するセキュリティの仕組みです。
ファイアウォールとの違いや検知の仕組み、導入メリット、WAFやSIEMと組み合わせた多層防御の構成まで、セキュリティ担当者が知っておくべき知識をわかりやすく解説します。
この記事を読むことで、IPSの基本から選び方・運用のポイントまで体系的に理解できます。

1. セキュリティにおけるIPSとは何かをわかりやすく説明

1.1 IPSの意味と概要

IPSとは、「Intrusion Prevention System(侵入防止システム)」の略称であり、ネットワーク上を流れる通信をリアルタイムで監視し、不正なアクセスや攻撃を自動的に検知・遮断するセキュリティシステムのことです。
企業や組織のネットワークを外部からのサイバー攻撃から守るための重要な防衛手段として、多くの現場で導入されています。

IPSは単に攻撃を「検知」するだけでなく、検知した脅威をリアルタイムで自動ブロックできる点が最大の特徴です。
通信の内容を深く分析し、既知の攻撃パターンや異常な挙動を素早く識別することで、被害が発生する前に脅威を排除します。

似た用語として「IDS(Intrusion Detection System:侵入検知システム)」があります。
IDSはあくまで不正アクセスを「検知して通知する」ことを目的としており、自動的な遮断機能は持ちません。
一方でIPSはIDSの機能に加えて、自動遮断・通信ブロックという能動的な防御機能を備えた、より高度なセキュリティシステムと位置づけられています。

項目IDS(侵入検知システム)IPS(侵入防止システム)
主な役割不正アクセスの検知・通知不正アクセスの検知・自動遮断
対応の自動化なし(管理者が手動対応)あり(リアルタイムで自動ブロック)
通信への介入介入しない(パッシブ型)介入する(インライン型)
導入目的監視・記録・アラート防御・遮断・保護

このように、IPSはIDSよりも一歩踏み込んだ積極的な防御を実現するシステムです。現在のセキュリティ対策においては、IPSはファイアウォールやWAF(Web Application Firewall)などと組み合わせて使われることが多く、企業の情報セキュリティを支える中核的な存在となっています。

1.2 IPSが登場した背景と必要性

インターネットの普及とともに、企業ネットワークを狙うサイバー攻撃は年々高度化・多様化してきました。
かつてはファイアウォールによるポート制御や、パケットフィルタリングといった比較的シンプルな手法で多くの脅威に対応できていました。
しかし、攻撃者の手口が巧妙になるにつれ、従来のファイアウォールだけでは防ぎきれない脅威が急増するようになりました。

特に、以下のような攻撃手法はファイアウォールをすり抜けてしまうケースが多く、新たな対策が求められるようになりました。

  • SQLインジェクションやクロスサイトスクリプティング(XSS)などのアプリケーション層への攻撃
  • 許可されたポートやプロトコルを悪用した不正通信
  • マルウェアや不正プログラムの侵入
  • ゼロデイ攻撃(脆弱性が公表される前に行われる攻撃)
  • DoS攻撃・DDoS攻撃によるサービス妨害

こうした背景から、ファイアウォールの「外側と内側を分ける」という役割を超えて、通信の内容そのものを深く検査し、脅威をリアルタイムで排除できるIPSの必要性が高まりました。
2000年代初頭から企業向けセキュリティ製品として普及が始まり、現在では大企業・中小企業を問わず、情報セキュリティ対策の標準的な構成要素として位置づけられています。

また、個人情報保護法の改正やISO/IEC 27001などのセキュリティ規格への準拠が求められる環境において、IPSの導入は法令・規制対応の観点からも重要性を増しています。
ネットワークへの不正侵入を未然に防ぐことは、企業の信頼性を守ることに直結するため、IPSはもはや「あれば望ましい」ではなく、「必須の対策」として認識されるようになっています。

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2. IPSの仕組みをわかりやすく解説

IPSはネットワーク上を流れるパケット(通信データ)をリアルタイムで監視し、不正な通信を検知した瞬間に自動でブロックするセキュリティシステムです。その動作は大きく「通信の監視・分析」「脅威の検知」「自動ブロック」という3つのステップで成り立っています。それぞれのプロセスを順番に理解することで、IPSがなぜ現代のセキュリティ対策に欠かせない存在なのかが明確になります。

2.1 通信を監視・分析するプロセス

IPSはネットワークの経路上にインライン(直列)で設置され、通過するすべてのパケットをリアルタイムでキャプチャします。取得したパケットはディープパケットインスペクション(DPI)と呼ばれる技術によって、ヘッダー情報だけでなくペイロード(データの中身)まで詳細に解析されます。

この解析によってIPSは、通信の送信元・宛先のIPアドレス、使用されているポート番号、プロトコルの種類、そしてデータの内容パターンを総合的に把握します。
パケットの中身まで検査するこのディープパケットインスペクションこそが、単純なファイアウォールとIPSの最大の違いであり、高度な脅威を検出できる理由です。

解析処理は通信速度に影響を与えないよう、専用のハードウェアアクセラレーターやASICチップを活用して高速に処理されます。これにより、ユーザーが通常の業務で気づかないうちに、膨大な量のトラフィックが常時チェックされている状態が維持されます。

2.2 不正アクセスを検知する方法

IPSが通信を「安全か、危険か」と判断するための検知手法は主に2種類あります。
それぞれに特徴があり、多くのIPS製品では両方を組み合わせて運用することで検知精度を高めています。

2.2.1 シグネチャベース検知

シグネチャベース検知は、既知の攻撃パターン(シグネチャ)と照合することで脅威を特定する方法です。
シグネチャとは、過去に確認されたマルウェアや攻撃コードの特徴的なパターンをデータベース化したものです。ウイルス対策ソフトのパターンファイルに近い概念と理解するとわかりやすいでしょう。

パケットの内容がシグネチャデータベース内のいずれかのパターンと一致した場合、IPSは即座にその通信を不正と判断してブロックします。
シグネチャベース検知の最大の強みは誤検知が少なく、処理速度が速い点にあります。
一方で、シグネチャが登録されていない未知の攻撃(ゼロデイ攻撃)には対応できないという弱点もあります。
そのため、シグネチャデータベースを常に最新の状態に保つ運用が非常に重要です。

2.2.2 アノマリベース検知

アノマリベース検知は、あらかじめ学習した「正常な通信の状態」と比較し、そこからの逸脱(アノマリ)を異常として検知する方法です。通常時のトラフィック量・通信パターン・接続頻度などをベースラインとして設定し、そのベースラインから大きく外れた動きを検知した時点でアラートを発します。

アノマリベース検知の最大のメリットは、シグネチャが存在しないゼロデイ攻撃や未知の脅威に対しても検知できる可能性がある点です。
例えば、通常では考えられない量の通信が短時間で発生した場合(DDoS攻撃の兆候)や、業務時間外に特定の内部サーバーへ大量のアクセスが行われた場合などを異常として検出できます。
ただし、正常な通信を誤って不正と判断する「誤検知(フォールスポジティブ)」が発生しやすいという課題もあり、チューニングによる調整が運用上のポイントになります。

検知方式仕組み主なメリット主なデメリット
シグネチャベース検知既知の攻撃パターン(シグネチャ)と照合して判定する誤検知が少なく処理速度が速い未知の攻撃・ゼロデイ攻撃には対応できない
アノマリベース検知正常な通信のベースラインからの逸脱を検知する未知の脅威やゼロデイ攻撃にも対応できる可能性がある誤検知が発生しやすくチューニングが必要

2.3 脅威を自動でブロックする仕組み

脅威を検知した後、IPSは管理者の手を借りることなく自動で対処を実行します。
これがIDSとの最も根本的な違いであり、IPSの名前に「Prevention(防御・防止)」が含まれている理由でもあります。

IPSが脅威を検知した際に実行できる主なアクションは以下の通りです。

対処アクション内容
パケットのドロップ不正と判断したパケットを破棄し、宛先への到達を阻止する
セッションのリセット不正な通信のTCPセッションを強制的に切断する
送信元IPアドレスのブロック攻撃元のIPアドレスからの通信を一定期間または恒久的に遮断する
アラート通知管理者に対してメールやSNMPトラップで検知内容を通知する
ログの記録検知した脅威の詳細情報をログとして保存し、後から分析できるようにする

IPSがインラインで設置されているため、不正パケットはシステムやサーバーに到達する前に遮断されます。
これにより、攻撃が成功する前の段階で被害を未然に防ぐことが可能です。
このリアルタイムでの自動防御こそが、IPSをセキュリティ対策の中核に位置づける理由のひとつです。

なお、IPSが自動でブロックを行う一方で、そのすべての検知・対処内容はログとして蓄積されます。
蓄積されたログはセキュリティインシデントの事後分析や、社内のセキュリティポリシーの見直しにも活用できるため、運用管理の観点からも非常に重要なデータとなります。

3. IPSとファイアウォールの違い

IPSを正しく理解するうえで、多くの人が混同しやすいのが「ファイアウォール」との違いです。どちらもネットワークセキュリティを支える重要な技術ですが、その役割と動作の仕組みは明確に異なります。
それぞれの特性を把握することで、自社のセキュリティ環境に何が必要かを判断しやすくなります。

3.1 ファイアウォールの役割

ファイアウォールは、あらかじめ設定されたルールに基づいて、通信の「許可」と「拒否」を制御するセキュリティ機器です。
主にIPアドレス・ポート番号・プロトコルといった情報をもとに、ネットワーク境界でのアクセス制御を行います。

たとえば「外部からのHTTP通信は許可するが、特定のIPアドレスからの接続はすべてブロックする」というような設定が可能です。
この仕組みは非常にシンプルかつ高速で動作しますが、通信の「中身(パケットの内容)」を詳しく解析する機能は持っていないという限界があります。

つまり、ファイアウォールが「許可」した通信の中に悪意のある攻撃コードが含まれていても、それを検知・遮断することは基本的にできません。ルールに合致している通信は素通りしてしまうため、正規ポートを利用した攻撃や、アプリケーション層を狙った高度な脅威には対応しきれないケースがあります。

3.2 IPSが補完できるセキュリティ機能

IPSは、ファイアウォールでは検知・防御できない領域をカバーするために機能します。通信の内容(ペイロード)をリアルタイムで深く解析し、不正なパターンや異常な振る舞いを検知した場合に自動でブロックするのがIPSの強みです。

ファイアウォールが「通信を通すかどうか」を判断する”門番”だとすれば、IPSは「通過した通信が安全かどうか」を検査する”検問所”のような役割を果たします。この二段構えの構成にすることで、より強固なセキュリティ体制を実現できます。

以下の表で、ファイアウォールとIPSの主な違いを整理します。

比較項目ファイアウォールIPS
主な目的通信の許可・拒否によるアクセス制御不正な通信の検知と自動遮断
解析の深さIPアドレス・ポート・プロトコルなどのヘッダ情報パケットの内容(ペイロード)まで深く解析
動作タイミング通信の入口でルールベースに判断通信をリアルタイムで監視・検知・遮断
対応できる脅威不正なIPやポートからの接続脆弱性を狙った攻撃・マルウェア・DoS攻撃など
自動遮断機能ルールに基づく静的な制御検知と同時にリアルタイムで遮断
アプリケーション層への対応基本的には非対応(次世代FWを除く)対応可能

なお、近年では「次世代ファイアウォール(NGFW)」と呼ばれる製品が登場しており、従来のファイアウォールにIPSの機能を統合したものも存在します。
ただし、専用のIPS製品と組み合わせて使うことで、より精度の高い検知・防御が可能になるため、セキュリティ要件が高い環境では両者を併用する構成が推奨されています。

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ファイアウォールとIPSはどちらか一方があれば十分というものではなく、それぞれが異なる役割を担う補完的な関係にあります。自社のネットワーク環境や守るべき情報資産の重要度に応じて、両者を適切に組み合わせて導入することがセキュリティ強化の基本的な考え方です。

4. IPSの種類と特徴

IPSは導入する環境や目的によって、いくつかの種類に分類されます。それぞれ監視対象・設置場所・運用形態が異なるため、自社のネットワーク構成やセキュリティポリシーに合ったタイプを選ぶことが重要です。ここでは代表的な3種類について、特徴と適した利用シーンをわかりやすく解説します。

4.1 ネットワーク型IPS

ネットワーク型IPS(NIPS:Network-based Intrusion Prevention System)は、ネットワークの入口や重要なセグメントにセンサー(専用機器またはソフトウェア)を設置し、通過するすべての通信パケットをリアルタイムで監視・分析するタイプです。

組織全体のネットワークトラフィックを一括して監視できるため、外部からの不正アクセスやマルウェア通信をネットワークレベルで遮断することが得意です。企業の境界防御として、ファイアウォールと組み合わせて導入されるケースが多く見られます。

ただし、暗号化された通信(HTTPS/TLSなど)の中身を直接解析することは標準的な構成では困難な場合があるため、別途SSLインスペクション機能を持つ機器と組み合わせることが一般的です。
また、通信量が非常に多い環境では、処理性能の高いアプライアンスが必要になる点にも注意が必要です。

4.2 ホスト型IPS

ホスト型IPS(HIPS:Host-based Intrusion Prevention System)は、監視対象となるサーバーやエンドポイント(PC・端末)に直接エージェントソフトウェアをインストールし、そのホスト上での通信・プロセス・ファイルアクセスを監視するタイプです。

ネットワーク型が「外側からの脅威」を防ぐのに対して、ホスト型は「端末内部での不審な挙動」を検知・防止することに強みがあります。たとえば、マルウェアがシステムファイルを書き換えようとする動作や、権限のないプロセスがネットワーク通信を行おうとする動作をリアルタイムで検知し、自動的にブロックすることができます。

リモートワークの普及やBYOD(個人所有端末の業務利用)が広がる現代において、エンドポイントレベルでの防御を強化する手段として注目されています。一方で、監視対象の端末ごとにエージェントを導入・管理する必要があるため、端末台数が多い組織では運用コストが増大しやすいという点を考慮する必要があります。

4.3 クラウド型IPS

クラウド型IPSは、IPSの機能をクラウドサービスとして提供する形態で、自社内に専用機器を設置することなくセキュリティ対策を導入できるタイプです。
近年ではSaaS型のセキュリティサービスの普及とともに、中小企業や新規事業立ち上げ時のセキュリティ環境として採用されるケースが増えています。

物理的なハードウェアの購入・設置・保守が不要であるため、初期投資を抑えながら高度なセキュリティ機能を利用できる点が最大のメリットです。また、クラウドベンダー側でシグネチャの更新や機能改善が継続的に行われるため、常に最新の脅威情報に基づいた防御が可能です。

一方で、インターネット回線経由でトラフィックを処理するため、ネットワークの遅延が生じる可能性がある点や、クラウドサービスへの依存度が高まる点については、事前に運用リスクとして検討しておく必要があります。

以下の表に、3種類のIPSの主な特徴と比較をまとめます。

種類設置場所・方法主な監視対象主なメリット主な注意点
ネットワーク型IPS(NIPS)ネットワーク上のセグメントにセンサーを設置ネットワーク全体を通過するパケット組織全体の通信を一括監視できる暗号化通信の解析には追加対策が必要
ホスト型IPS(HIPS)各サーバー・端末にエージェントをインストール各ホスト上の通信・プロセス・ファイル操作端末内部の不審な挙動を詳細に検知できる端末ごとの管理が必要で運用コストが増加しやすい
クラウド型IPSクラウドサービスとして利用(機器不要)クラウド経由で処理されるトラフィック初期コストを抑えて最新の防御機能を利用できるインターネット依存による遅延リスクがある

このように、IPSにはそれぞれ異なる強みと適した用途があります。自社のネットワーク規模・端末数・クラウド利用状況などを踏まえたうえで、適切な種類を選定することが、効果的なセキュリティ対策につながります。次の章では、IPSを導入することで得られる具体的なメリットについて詳しく解説します。

5. IPSをセキュリティ対策として導入するメリット

IPSをセキュリティ対策として導入することには、企業・組織のネットワーク環境を守る上で多くの具体的なメリットがあります。ここでは、IPSを活用することで得られる代表的な利点を詳しく解説します。

5.1 サイバー攻撃をリアルタイムで防御できる

IPSの最大の強みは、ネットワーク上を流れる通信をリアルタイムで監視し、不正な通信を検知した瞬間に自動でブロックできる点にあります。
従来のIDS(侵入検知システム)は検知後に管理者への通知にとどまりましたが、IPSは検知から遮断までを自動で完結します。

例えば、標的型攻撃やゼロデイ攻撃のように素早く侵入を試みる攻撃に対しても、人的対応を待たずにブロックできるため、被害の拡大を最小限に抑えることができます。セキュリティ担当者が24時間365日監視できない環境においても、IPSが自律的に防御を継続するという点は、特に中小企業にとって大きなメリットといえます。

対応方式検知自動ブロック管理者通知
IDS(侵入検知システム)ありなしあり
IPS(侵入防止システム)ありありあり

このように、IPSはIDSの検知機能に加えて自動防御の機能を備えており、インシデント発生時の初動対応を自動化することでセキュリティ運用の負荷を大幅に軽減できます。

5.2 多様な攻撃手法に対応できる

現代のサイバー攻撃は、特定のパターンに限らず非常に多様化しています。IPSはシグネチャベースの検知だけでなく、アノマリベース(異常検知)の仕組みも組み合わせることで、既知の攻撃から未知の脅威まで幅広い攻撃手法に対して有効に機能します。

具体的に対応できる主な攻撃の種類は以下のとおりです。

攻撃の種類概要IPSによる対応
DoS・DDoS攻撃大量のリクエストを送りつけてサービスを停止させる攻撃異常なトラフィックを検知してブロック
SQLインジェクションWebアプリケーションの脆弱性を突いてデータベースを不正操作する攻撃不正なクエリパターンをシグネチャで検知・遮断
バッファオーバーフロー攻撃メモリの境界を超えてデータを書き込み、システムを乗っ取る攻撃異常なデータパターンを検知してブロック
マルウェアの通信感染端末が外部の指令サーバーと通信するC2通信など既知のマルウェア通信をシグネチャで検知・遮断
ゼロデイ攻撃まだ修正パッチが存在しない脆弱性を突く攻撃アノマリ検知による異常な通信の検出でカバー

シグネチャのデータベースを最新の状態に保つことと、アノマリ検知の精度を高めることで、既存のセキュリティ対策では検知が難しかった新種の脅威に対しても対応力を持つことができます。

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5.3 ログ・レポートによる可視化が可能

IPSは通信の監視・防御を行うだけでなく、検知・ブロックした攻撃の内容を詳細なログとして記録し、セキュリティ状況を可視化する機能も備えています。このログ・レポート機能は、組織のセキュリティ運用において非常に重要な役割を果たします。

具体的には、以下のような情報を記録・レポートとして出力することができます。

記録される情報活用用途
攻撃元のIPアドレス・通信先攻撃経路の特定・ブラックリストへの追加
攻撃の種類・手法脅威トレンドの把握・対策の優先順位付け
検知・ブロックの発生日時インシデント調査・フォレンジック対応
影響を受けた端末・サービス被害範囲の特定・影響分析
アクションの結果(許可・遮断)ポリシーの見直し・チューニング

蓄積されたログは、SIEM(セキュリティ情報イベント管理)ツールと連携することで、さらに高度な分析が可能になります。また、定期的なレポートを作成することで、経営層やセキュリティ担当者へのセキュリティ状況の報告資料としても活用できます。

ログの可視化によって「何が、いつ、どこから攻撃されたか」を明確に把握できるため、インシデント発生後の迅速な原因究明と再発防止策の立案にも直接役立てることができます。

6. IPS導入時の課題と対策

IPSはサイバー攻撃をリアルタイムで遮断できる強力なセキュリティツールですが、導入すれば即座に完璧な防御が実現するわけではありません。実際の運用現場では、誤検知や管理コストといった課題が生じることがあります。ここでは、IPS導入時に直面しやすい代表的な課題と、その具体的な対策についてわかりやすく解説します。

6.1 誤検知・過検知への対応方法

IPSを運用する上で、もっとも多くの担当者が頭を悩ませる問題が誤検知(フォルスポジティブ)と過検知の問題です。誤検知とは、本来は正常な通信であるにもかかわらず、IPSが脅威と判断してブロックしてしまう現象を指します。過検知は検知の感度が高すぎるために、必要以上にアラートやブロックが発生する状態です。

誤検知が多発すると、業務システムやWebアプリケーションへの正常なアクセスが遮断され、業務に支障をきたすリスクがあります。また、アラートが大量に発生することで、本当に危険な脅威の検知が埋もれてしまうという二次的な問題も生じます。

以下に、誤検知・過検知への主な対応方法をまとめます。

対応方法内容効果
チューニング(ホワイトリスト設定)信頼できるIPアドレスや通信パターンを除外リストに登録する正常通信への誤ブロックを減らせる
シグネチャの定期見直し使用環境に合わせて不要なシグネチャを無効化または調整する過剰な検知アラートを抑制できる
段階的な運用モードの適用最初は検知のみ行う「検知モード」で稼働し、状況を確認してからブロックモードへ移行する業務影響を最小限に抑えながら調整できる
ログの定期分析検知ログを定期的に確認し、誤検知のパターンを特定して設定に反映する継続的な精度向上が期待できる

導入直後はいきなり完全なブロックモードで運用するのではなく、まず検知モードで一定期間稼働させて通信の傾向を把握することが、誤検知トラブルを防ぐための定石です。自社のネットワーク環境や業務システムに合わせた細かいチューニングを繰り返すことで、IPSの検知精度は大幅に向上します。

6.2 導入後の運用管理のポイント

IPSは導入して終わりではなく、継続的な運用管理によってはじめて効果を発揮するセキュリティ製品です。
サイバー攻撃の手口は日々進化しており、一度設定を完了したままにしておくと、新しい脅威に対応できなくなる恐れがあります。

運用管理における主なポイントは以下のとおりです。

管理項目推奨対応理由
シグネチャの定期更新ベンダーが提供する最新のシグネチャを定期的に適用する新しい脆弱性や攻撃手法に対応するため
ファームウェア・ソフトウェアの更新IPS製品本体のアップデートを適切なタイミングで実施する既知の脆弱性を塞ぎ、製品自体のセキュリティを保つため
ログの定期確認と保管検知・ブロックのログを定期的にレビューし、一定期間保管するインシデント発生時の原因究明やコンプライアンス対応に必要なため
ルール・ポリシーの見直し業務システムの変更やネットワーク構成の変化に合わせてルールを再設定する環境変化に追従し、誤検知や検知漏れを防ぐため
インシデント対応フローの整備IPSがアラートを発した際の対応手順をあらかじめ決めておく有事の際に迅速かつ適切に対処するため

特に中小規模の組織では、専任のセキュリティ担当者を配置することが難しいケースも少なくありません。その場合は、マネージドセキュリティサービス(MSS)の利用や、クラウド型IPSを採用することで運用負荷を軽減するという選択肢も有効です。クラウド型の場合、シグネチャ更新や監視の一部をベンダー側が担ってくれるため、社内リソースが限られている組織でも高い水準のセキュリティを維持しやすくなります。

また、IPSの運用はセキュリティ担当者だけの問題ではありません。経営層や情報システム部門と連携し、セキュリティポリシーの策定やインシデント発生時の報告体制を組織全体で整備しておくことが、IPS運用を長期的に成功させるための重要な前提条件となります。

7. IPSを活用した多層防御のセキュリティ構成

IPSは単独で導入するだけでなく、他のセキュリティソリューションと組み合わせることで、より強固な防御体制を構築できます。近年のサイバー攻撃は高度化・多様化しており、一つの製品や手法だけで完全に防ぐことはほぼ不可能です。そこで重要になるのが、複数のセキュリティ対策を層状に重ねて組み合わせる「多層防御(ディフェンス・イン・デプス)」という考え方です。

多層防御とは、ネットワークの外側から内側に向かって、それぞれの層に異なるセキュリティ機能を配置し、一つの防御が突破されても次の層で脅威を食い止める仕組みです。IPSはこの多層防御において中核的な役割を担いますが、WAFやSIEMといったツールと組み合わせることで、その効果は大幅に向上します。

7.1 WAFやSIEMと組み合わせる方法

IPSと組み合わせることで効果を高めるセキュリティツールとして、特にWAF(Web Application Firewall)とSIEM(Security Information and Event Management)が挙げられます。それぞれの役割とIPSとの連携方法を理解することが、実践的な多層防御を構成するうえで重要です。

WAFはWebアプリケーションへの攻撃、たとえばSQLインジェクションやクロスサイトスクリプティング(XSS)といったアプリケーション層(OSI参照モデルの第7層)の脅威を検知・遮断することに特化しています。
一方、IPSはネットワーク層からトランスポート層にかけての広範な通信を監視し、不正なパケットやプロトコル異常を検知・ブロックします。
WAFとIPSはカバーする範囲が異なるため、両者を組み合わせることでアプリケーション層からネットワーク層まで幅広い攻撃に対応できるようになります。

SIEMは、ネットワーク機器・サーバー・セキュリティ機器など、複数のシステムから収集したログを一元管理し、相関分析によって脅威を可視化するプラットフォームです。IPSが検知・遮断したイベントのログをSIEMに集約することで、インシデントの全体像を把握しやすくなり、迅速な原因究明と対応が可能になります。
また、SIEMが複数のソースのログを分析することで、IPSだけでは気づきにくい複合的な攻撃のパターンも検出しやすくなります。

ツール主な役割IPSとの連携効果
IPSネットワーク・トランスポート層の不正通信を検知・遮断多層防御の中核として機能
WAFWebアプリケーション層への攻撃を検知・遮断アプリケーション層の脅威をIPSと分担してカバー
SIEM複数ソースのログを一元管理・相関分析IPSのログを統合してインシデントを可視化・分析
ファイアウォール送受信パケットのルールベースでの許可・遮断IPSと組み合わせてネットワーク境界での防御を強化
EDR(エンドポイント検知・対応)端末上の不審な挙動をリアルタイムで検知・対応ネットワーク侵入後の端末上の脅威をIPSと補完

上記のように、各ツールはカバーする領域や得意とする脅威が異なります。
これらを組み合わせて運用することで、ネットワーク境界から端末内部までをシームレスに保護する多層防御の体制を整えることができます。

実際の構成例としては、インターネットとの境界にファイアウォールとIPSを配置し、Webサーバーの手前にWAFを設置します。そして各機器のログをSIEMに集約し、セキュリティチームが一元的に監視・分析を行うという構成が、国内の多くの企業でも採用されています。このような構成により、外部からの侵入試みはIPSとファイアウォールで防ぎ、Webアプリケーションへの攻撃はWAFが受け止め、万一の侵害が発生した際にはSIEMが迅速な検知と対応を支援します。

7.2 ゼロトラストセキュリティとの関係

近年、セキュリティの設計思想として「ゼロトラスト(Zero Trust)」という考え方が急速に普及しています。ゼロトラストとは、「社内ネットワークだからといって信頼しない」という原則のもと、すべてのアクセスを常に検証・認証するセキュリティモデルです。
従来の境界型セキュリティモデルが「社内ネットワーク内は安全」という前提に立っていたのに対し、ゼロトラストはその前提を持ちません。

テレワークの普及やクラウドサービスの利用拡大により、社内外の境界が曖昧になった現代において、ゼロトラストの考え方はますます重要性を増しています。では、従来型のセキュリティ機器であるIPSは、ゼロトラスト環境においてどのような役割を果たすのでしょうか。

IPSはゼロトラストの構成要素の一つとして引き続き有効に機能します。ゼロトラスト環境では、すべての通信をIDベースで認証・認可しつつ、通信内容そのものの安全性も継続的に検証する必要があります。
IPSはこの「通信内容の継続的な検証と脅威の遮断」という役割を担う機能として、ゼロトラストアーキテクチャの中に組み込まれます。

具体的には、マイクロセグメンテーション(ネットワークを細かく分割してアクセス制御を強化する手法)と組み合わせることで、万一攻撃者がネットワーク内部に侵入しても、横移動(ラテラルムーブメント)による被害の拡大をIPSが検知・遮断できます。
また、SDP(Software Defined Perimeter)やIAM(Identity and Access Management)といったゼロトラストを構成する技術と連携させることで、より精緻なアクセス制御と脅威対応が実現します。

セキュリティモデル基本的な考え方IPSの位置づけ
境界型セキュリティ社内ネットワークを信頼し、外部との境界を重点的に防御するネットワーク境界に配置し、外部からの不正通信を遮断する中核機能
ゼロトラストセキュリティ社内・社外問わずすべてのアクセスを常に検証・認証する通信内容の継続的な監視・脅威遮断を担う構成要素の一つとして機能

ゼロトラストへの移行はすべての企業が一度に完了できるものではなく、段階的に進めていくケースが一般的です。
その過程においても、IPSは既存のネットワークインフラを活用しながら高度な脅威検知・遮断機能を提供できるため、ゼロトラスト移行期においても重要な役割を担い続けます。

多層防御とゼロトラストは相互補完的な関係にあります。多層防御によって複数の防護層を設けつつ、ゼロトラストの原則によってすべてのアクセスを継続的に検証する。この両者を組み合わせたアプローチが、現代のサイバーセキュリティにおける実践的な防御戦略といえます。IPSはその構成の中で、ネットワーク上の脅威をリアルタイムで検知・遮断するという欠かせない機能を果たしています。

8. IPS製品の選び方と代表的な製品例

8.1 選定時に確認すべき項目

IPS製品を選ぶ際には、自社のネットワーク環境や運用体制に合った製品を選定することが重要です。製品によって検知精度・処理性能・管理のしやすさに大きな差があるため、以下の観点を軸に比較検討を進めるとよいでしょう。

確認項目内容確認のポイント
検知精度・シグネチャ更新頻度既知の攻撃パターンをどれだけ正確に検知できるかシグネチャの更新が自動かつ高頻度で行われるか確認する
スループット(処理性能)大量の通信を遅延なく処理できるか自社のネットワーク帯域に対して十分なスペックがあるか確認する
誤検知率(False Positive)正常な通信を誤って脅威と判断する頻度チューニング機能やホワイトリスト設定が充実しているか確認する
管理コンソールの使いやすさログの確認・ルール設定・レポート生成のしやすさGUIで直感的に操作できるか、日本語対応かを確認する
他のセキュリティ製品との連携SIEMやファイアウォール、WAFとの統合のしやすさAPIやSyslog連携など、既存環境への統合が可能かを確認する
サポート体制導入後の技術支援や障害時の対応速度国内に日本語サポート窓口があるか、24時間対応かを確認する
ライセンス形態・コスト初期費用・年間費用・シグネチャ更新費用の総額TCO(総所有コスト)で比較し、予算に見合うか確認する

特に注意したいのが、スループットと誤検知率のバランスです。処理性能が高くても誤検知が多ければ業務への影響が大きく、運用負荷が増大します
導入前には可能な限りPoC(概念実証)を実施し、実際の環境での動作を確認することが推奨されます。

また、自社に専任のセキュリティ担当者がいない場合は、マネージドセキュリティサービス(MSS)として提供されているIPS製品を選ぶことで、運用負荷を大幅に軽減できます
クラウド型のIPS製品はこのMSS形態をとるものが多く、中小企業にとっても導入しやすい選択肢となっています。

8.2 国内で導入実績のある主なIPS製品

国内市場において導入実績のあるIPS製品・サービスをいくつか紹介します。いずれも国内での認知度が高く、企業や官公庁を中心に広く利用されている製品です。

製品名/サービス名提供形態特徴主な導入先
Cisco Secure IPS(旧 Sourcefire NGIPS)アプライアンス型・仮想アプライアンス型世界最大規模のシグネチャデータベースを持つCisco Talosによる高精度な脅威インテリジェンスを活用。大規模ネットワークに対応できる高いスループット性能が特徴。大企業・金融・官公庁
Palo Alto Networks 次世代ファイアウォール(IPS機能統合)アプライアンス型・クラウド型次世代ファイアウォールにIPS機能を統合した製品。アプリケーション識別とユーザー識別を組み合わせた高精度な制御が可能。大企業・通信・金融
Fortinet FortiGate(IPS機能統合)アプライアンス型・クラウド型UTM(統合脅威管理)製品の中でIPS機能を提供。コストパフォーマンスが高く、中小企業から大企業まで幅広く導入されている。中小企業~大企業・医療・製造
Check Point Quantum IPSアプライアンス型・仮想アプライアンス型豊富なシグネチャ数と自動アップデート機能が強み。脅威インテリジェンスサービス「ThreatCloud」との連携による高度な検知が可能。大企業・官公庁・金融
McAfee Network Security Platform(Trellix)アプライアンス型アノマリベース検知に強みを持ち、未知の脅威に対しても高い検知精度を発揮する。現在はTrellixブランドとして展開。大企業・金融・製造
NTTセキュリティ マネージドIPSマネージドサービス型(クラウド)NTTグループが提供するマネージドセキュリティサービス。24時間365日の監視・運用を代行するため、自社に専任担当者がいない企業でも導入しやすい。中小企業・地方自治体・医療福祉

上記の製品はいずれも国内での導入実績が豊富ですが、製品選定においては「機能の豊富さ」だけでなく、自社の運用体制・予算・既存のセキュリティ環境との親和性を総合的に評価することが最も重要です

特に中小企業や、セキュリティ専任の担当者が不在な組織では、アプライアンスを自社で管理するよりも、マネージドIPSサービスを活用することで、専門知識がなくても高水準のセキュリティを維持しやすくなります
導入前にはベンダーや販売代理店に相談し、自社の環境に最適な構成を提案してもらうことをおすすめします。

9. まとめ

IPSとは、ネットワーク上を流れる通信をリアルタイムで監視・分析し、不正アクセスやサイバー攻撃を自動的にブロックするセキュリティシステムです。シグネチャベース検知とアノマリベース検知を組み合わせることで、既知・未知の脅威に幅広く対応できる点が大きな強みです。

ファイアウォールだけでは防ぎきれない高度な攻撃に対しても、IPSを導入することで防御力を大幅に高められます。さらに、WAFやSIEMと組み合わせた多層防御の構成にすることで、ゼロトラストセキュリティの考え方にも沿った強固な環境を実現できます。

導入にあたっては、誤検知への対応や継続的な運用管理が課題となりますが、適切な設定とログの活用によって安定した運用が可能です。ネットワーク型・ホスト型・クラウド型のなかから、自社の環境と用途に合った製品を選ぶことが重要です。

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